「よびつぎ」と呼ばれる継ぎのある小皿に出会う機会があった。
古い窯跡を掘り返してみつけた膨大な欠片の中から合うものを見つけ、継ぎ合わせる陶芸の技法のことをそう言うのだと知った。
葉山でみたベーコンのドローイングは彼自身の欠片だった。
ピカソのキュビズムの発明を「よびつぎ」と解釈してはだめだろうか。
ダ・ヴィンチはモナリザを生涯傍に置き筆を加え続けたと聞いた。
エピソードを知るほどに、巨匠たちの仕事をひとりの人の行いとして感じたくなる。
私には次第に「よびつぎ」という言葉が人の生そのものに思えてきた。
体内に蓄めてきた言葉の数々。耳に残る声。目にやきついた風景。
手さぐりで行きつ戻りつ、唯一の欠片を呼びよせつなげて形にする。
許された時間をそのために使いきることができるよう願う。
山口県立萩美術館・浦上記念館の茶室で行われていたインスタレーション、「anthology」の作品が会期を終え私の元に戻ってきた。
未知のウイルスに混迷する人間をよそにこの一年、七千個余りの糸巻に抱かれた針目たちは、濃密な時の中でそれぞれの物語や景色を伝え聞いていたことだろう。
そこに私の時間を継いでゆくことにした。
まず一番大きな作品に真っ二つにハサミを入れ、昨夏からふくらみ続けてきた渦巻きとつなぎ
レモン色の二点は、もうひとつ作品ができる程の針目を加えた。
一度発表した作品をあらためてご覧いただくという機会を得て、この挑みを果たすことができた。 六月五日(土)~七月十日(土)KOSAKU KANECHIKA にて個展「よびつぎ」がひらかれます。
「anthology」の再構築作品 四点に、江戸後期のモスリン(毛織物)に施したドローイング的小品の新作二点を加え、六点の展示となります。
一人でも多くの方にご覧いただく機会がありますように、心より願っています。
六月四日 沖 潤子
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